frankincense
わたしの父はチョコレートとブランデーが大好きで、7年前のバレンタインデーの日も、お酒がたっぷり入ったチョコレートを持って実家にむかった。当時住んでいた鎌倉の家は敷地内が石畳で、出かける直前にうっかり携帯電話を落としてしまった。画面は見事に割れてしまい、なんだか不吉な予感が一瞬頭をよぎった。
実家に着いて、父にチョコレートを渡すと、重々しい顔で何かを言いたげだけれども、娘にもらったチョコレートを嬉そうに見つめて、微笑んだ。
どうやらその時、父は末期癌と宣告された直後だったようだ。
どんどん痩せ細っていく父、なにか私に出来ないかと、色々なことを試した。
冷えきった足の裏を、フランキンセンスのオイルでさすった。父は、あたたかくなるからまたやってほしいと言った。
わたしは時間の許すかぎり実家に行き、父の足をフランキンセンスのオイルでさすった。
ご飯も食べられなくなり、しっかりした体格だった父は別人のように痩せてしまい、もうあとどのくらい会えるのか、なんて考えていたらポロポロと涙が溢れ出して、大泣きしながら足をさすっていた。
痛くて苦しそうな顔の父は、さすっている間だけ穏やかな顔にみえた。
亡くなる前の日も、わたしはフランキンセンスで足をさすった。
また明日も来るね、といって、最後のお別れなんてせず、フランキンセンスの香りが漂う父のもとを去った。
もっと違う香りもかいでもらえばよかった。フルーティでフレッシュな香り、森林浴してるみたいな香り、華やかでフローラルな香りもいがいと好きだったかもしれない。
そんなおもいを引きずってか、つい最近までなんとなく避けていたフランキンセンス。
そう、つい最近、精油の手入れをしながらふと手にとって嗅いでみたフランキンセンスは、今まで感じたことのない優しい香りにかわっていた。そして、暫くフランキンセンスに癒されていた。
香りの学校へ通い出したきっかけは、父とフランキンセンスでもあるし(ほかにもうひとつあるけれど)それがあって今のわたしがあるわけで。
そんな香りと記憶のはなし。でした!
Arte
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